津地方裁判所 昭和56年(わ)339号 判決 1987年5月22日
本店所在地
三重県四日市市大字六呂見九〇〇番地
株式会社ウエスギ物産
(右代表者代表取締役 上杉勝治)
本籍
同県同市北浜町一三七二番地
住居
同県同市午起一丁目二番一一号
無職
上杉謙一
昭和六年九月二六日生
本籍
同県同市北浜町一三七二番地
住居
茨木県鹿島郡神栖町大字知手七六番地の一一
会社役員
上杉清高
昭和一四年一〇月二〇日生
右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官安達敏男出席の上審理を遂げ、次のとおり判決する。
主文
被告人株式会社ウエスギ物産を罰金四〇〇万円に、被告人上杉謙一、同上杉清高の両名を各懲役八月にそれぞれ処する。
被告人上杉謙一、同上杉清高の両名に対し、この裁判確定の日から、いずれも三年間その刑の執行を猶予する。
訴訟費用のうち、証人佐田正に関する分は被告人株式会社ウエスギ物産の負担とし、証人横井久和に関する分は被告人上杉謙一、同上杉清高両名の連帯負担とし、その余は被告人株式会社ウエスギ物産、被告人上杉謙一、同上杉清高の連帯負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人株式会社ウエスギ物産(以下被告会社という)は、三重県四日市市大字六呂見九〇〇番地に本店を置き、茨城県鹿島郡神栖町大字知手三四二〇番地の四四に営業所を置き、廃棄物の収集・運搬処理・処分等を営業目的とする資本金四〇〇〇万円の株式会社であり、被告人上杉謙一は、同会社の経理に関する業務の全般を統轄しているものであり、被告人上杉清高は、同会社の鹿島営業所の業務全般を統轄しているものであるが、被告人両名は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、同会社代表取締役(当時)上杉利文らと共謀の上、売上の除外、外注費の架空計上等により、仮名預金を設定する等の不正な方法により所得の一部を秘匿した上、
第一 昭和五二年一〇月一日から昭和五三年九月三〇日までの事業年度において、被告会社の所得金額が一四八〇万〇八二五円で、これに対する法人税額が四八一万九七〇〇円であつたのにかかわらず、昭和五三年一一月三〇日、同県四日市市西浦二丁目二番八号所在の所轄四日市税務署において、同税務署長に対し、右事業年度における同会社の欠損金額が四九〇万二一四〇円で、これに対する法人税額は無い旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて、被告会社の右事業年度の正規の法人税額と右申告税額との差額四八一万九七〇〇円を免れ、
第二 昭和五三年一〇月一日から昭和五四年九月三〇日までの事業年度において、被告会社の所得金額が五七一六万三一八五円で、これに対する法人税額が二一五八万〇六〇〇円であつたのにかかわらず、昭和五四年一一月二九日、前記四日市税務署において、同税務署長に対し、右事業年度における同会社の所得金額が〇円で、これに対する法人税額は無い旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて、被告会社の右事業年度の正規の法人税額と右申告税額との差額二一五八万〇六〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示全部の事実につき
一 被告人上杉謙一、同清高の当公判廷における各供述
一 被告人上杉謙一の大蔵事務官(検乙6ないし17)及び検察官
(同18ないし20、37、38)に対する各供述調書
一 被告人上杉清高の大蔵事務官(検乙21ないし29)及び検察官
(同30、39)に対する各供述調書
一 上杉利文(検乙36)、水崎真知子(検甲211)の検察官に対する各供述調書
一 藤原喜久雄の検察官に対する供述調書(検甲223)及び供述調書の抄本(同221)
一 水崎真知子(検甲72、73)、清水邦雄(同74、75)、堀江勝民(同76、77)、荒木貞明(同78、79)、上杉俊子(同91、92)の大蔵事務官に対する各供述調書
一 第一三回公判調書中の証人金井傑の供述部分
一 証人藤原喜久雄、上杉勝治の当公判廷における各供述
一 大蔵事務官作成の各査察官調査書(検甲21ないし24、31、35、36、40、41ないし47、137、138、188ないし190)各査察官調査書の謄本(同216、217)及び証明書(同18)
一 検察官作成の各捜査報告書(検甲215、218)
一 登記官作成の登記簿謄本(検乙31、40、検甲114)
一 直井総雄外一名作成の定期預金元帳等写(検甲25)
一 須郷稔作成の普通預金取引明細及び伝票写(検甲26)
一 大塚晃作成の回答書(検甲27)
一 岩井卓二作成の普通預金元帳等の写(検甲34)
一 鈴鹿市長作成の固定資産税、都市計画税の納付状況照会に対する回答書(検甲38)
一 早川哲彦作成の普通預金申込書等の写(検甲191)
一 豊田久夫作成の上申書(検甲192)
一 押収してある棚卸表等綴一綴(昭和五七年押第五八号の四)、R簿現金出納簿一冊(同号の五)、売掛金残高明細等一綴(同号の一〇)振替伝票一綴(同号の一一)、封筒一通(同号の一七)、運賃請求書明細一冊(同号の一八)、黒色ファイル一冊(同号の一九)、買掛金元帳二綴(同号の二〇、二一)、振込金受取書等一綴(同号の二二)、見積書等一綴(同号の二三)
判示第一の事実につき
一 大平利彦(検甲80)、秋葉利雄(同81)、山口庄二(同82)、鬼頭正太郎(同85)、柳優賞(同86)、上杉由美(同90)の大蔵事務官に対する各供述調書
一 大蔵事務官作成の各査察官調査書(検甲130ないし132、187)、証明書(同9、11)及び脱税額計算書(同13)
一 鬼頭貞子作成の仕入帳、現金出納帳等の写(検甲28)
一 篠原弘之作成の回答書(検甲29)
一 保理敏夫作成の回答書(検甲30)
一 金春雄作成の定期預金元帳等の写(検甲32、33)
一 横井勲作成の回答書(検甲183、185)
一 押収してある外注支払明細綴一綴(昭和五七年押第五八号の一)、総勘定元帳二冊(同号の六、七)、振替伝票一綴(同号の一二)、入出金伝票一綴(同号の一三)、領収証綴二綴(同号の一六)
判示第二の事実につき
一 清水邦男(検甲121)、上杉勝治(同122、123)、金井傑(同125、126、127)、佐藤吉彦(同128)、柴田朝美(同201)、内野静江(同202)、石毛幸一(同203)、網中隆治(同204)、青柳良二(同205)の検察官に対する各供述調書
一 澤敬一郎(検甲83)、荒木正子(同88)の大蔵事務官に対する各供述調書
一 大蔵事務官作成の査察官調査書(検甲133ないし136、139、220)、証明書(同10、12、163)及び脱税額計算書(同14)
一 検察官作成の捜査報告書(検甲124)
一 井原清作成の当座預金元帳写(検甲129)
一 青柳良二作成の振替伝票及び貸付稟議書等の写(検甲164)
一 軽部勇作成の回答書(検甲186)
一 横井勲作成の各回答書(検甲194、196)
一 押収してある請求書綴一綴(昭和五七年押第五八号の二)、領収書等綴一綴(同号の三)、総勘定元帳二冊(同号の八、九)、入出金伝票二綴(同号の一四、一五)
(弁護人の主張に対する判断)
被告会社の弁護人は、昭和五四年度の法人税ほ脱額のうち、売上除外分三〇六六万一八五三円と架空外注費計上分五二三〇万五〇〇〇円の犯則所得については、被告人両名が、被告会社の業務とは関係なく着服横領したもので、被告会社代表者上杉利文らと共謀関係はない旨主張するのでこの点について検討する。
一 関係証拠によると、
1 被告会社(当時の商号、株式会社上杉物産)は、四日市市に本店(以下本社という)を、茨城県鹿島郡神栖町に営業所(以下鹿島営業所という)を置き、金属資材等の収集、販売、産業廃棄物の収集、運搬処理、処分等を目的とし、被告人ら兄弟全員を役員(長男上杉利文は代表取締役、次男の被告人上杉謙一は監査役、三男の上杉徳太郎、四男の上杉利高、五男の被告人上杉清高、六男の上杉勝治の四名はいずれも取締役)とするいわゆる兄弟会社であるが、被告人謙一は経理担当の藤原喜久雄を指揮して同会社の経理全般を掌理するとともに資金繰り面を担当し、被告人清高は鹿島営業所の所長として同営業所に常駐し、その業務全般を統括掌理していたこと、
2 被告会社は、昭和五二年度ころから、鹿島営業所の売上の一部を除外したり、水増外注費を計上するなどして所得を秘匿していたが、昭和五三年度においても、四男利高の家の新築資金や役員の簿外交際費を捻出する必要等から売上除外、水増外注費の計上、棚卸高の除外等の方法により所得の一部を秘匿して判示第一のとおり脱税を図って来たこと、
3 昭和五四年度の被告会社のほ脱所得に内容は、別紙増差犯則所得の内訳表のとおりであるが、外注費のうち、五〇九万八五〇〇円は水増外注費で、その計上は、中小企業金融公庫に対する借金返済の資金を調達するため、昭和五三年一二月ころ、本社における役員会議(被告人清高は欠席)において決定され、そのころ、これに基づき被告人謙一が前記藤原喜久雄に命じ、同人が鹿島営業所に赴き、被告人清高と相談の上、同営業所の取引先である二社(山印班、野中工業)に対する外注費を水増して帳簿操作をし、右資金を捻出したものであること、
4 その後、昭和五四年四月初めころ、被告人清高と利文が喧嘩し不仲となつたことから、被告人清高は業績のよい鹿島営業所を独立させ、新会社を設立して運営しようと考え、そのための資金等を捻出するため、脱税の結果になることを知りながら、三〇六六万一八五三円の同営業所の売上除外を実行したが、この事実は同年五月ころから被告人清高が同営業所の売上げを四日市の本社に全く送金して来なくなつたことから、被告人謙一を含む本社側の役員らにおいてもある程度認識していたものと認められること、
5 昭和五四年八月四日被告人清高は、被告人謙一の協力を得て、四男利高を加え、鹿島営業所の所在地に本店を置く株式会社上杉物産(単に新会社という)を設立したところ、同月一八日ころ、利文らの知るところとなり、兄弟二派に分れて喧嘩となり、同月二〇日ころ被告人謙一は四日市本社を追放され、以後本社の経営に関与しなくなつたこと、
6 被告人謙一は、右のように本社を追放(被告人両名及び利高が正式に被告会社の役員を解任されたのは昭和五四年一二月三一日開催の株主総会においてである)され飛び出すに当り、本社に保管中の預金や株券を取り戻すため、脱税する結果になることを知りながら被告人清高とともに、鹿島営業所の売上げを抜くことを計画し、その手段として架空外注費五二三〇万五〇〇〇円を計上することとし自らその帳簿操作をした上、被告人清高が同営業所の受取手形を取引金融機関(銚子信用金庫神栖支店)で割引して捻出し、全額被告人謙一に渡したこと、
7 前述のように、昭和五四年八月四日被告人両名は新会社を設立したものの、被告会社の決算期が同年九月三〇日で、事業年度が重なるので決算関係のふくそうすることを避けるため、新会社の営業の開始日を同年一〇月一日とし、昭和五四年度の被告会社の法人税の申告については、四日市本社と鹿島営業所とを合せて一本ですることとし、税理顧問の金井傑税理士を通じ、利文ら本社側の役員の了解を得たので、鹿島営業所の経理事務員水崎真知子に命じ、同営業所の同年九月分までの振替入出金伝票、未払金一覧表等の必要な書類を本社に送付し、これらに基づき右金井税理士は、被告会社の昭和五四年度の法人税確定申告書を作成し、同年一一月下旬ころ、本社事務所に赴き居合せた本社側の役員六男の勝治に「申告書の申告所得は零である」旨説明したところ、右勝治は代表者である長男利文にその旨伝え、これを了承した同人の依頼により勝治が申告書に利文の氏名を代書し、被告会社の実印を押捺した上、右金井税理士を介して同月二九日これを所轄の桑名税務署に提出したこと
以上の事実が認められる。
二 以上認定の事実によると昭和五四年度の法人税のほ脱のもととなつた不正工作(所得秘匿行為)のうち、水増外注費五〇九万八五〇〇円の計上については、被告会社の借金返済の資金を捻出するため、あらかじめ、被告人両名及び利文を含む全役員の合意によつて決せられ、実行に移されたものであつて、少なくとも、この点において、被告両名及び利文ら役員間において、法人税ほ脱の事前の共謀があつたものと認められる。もつとも、不正工作のうち、三〇六六万一八五三円の売上除外及び五二三〇万五〇〇〇円の架空外注費の計上については、その後被告人両名が勝手に行つたものであつて、不正工作の全部について利文らの認識があつたものとは必ずしもいえないかもしれないが、事前の不正工作を伴う法人税のほ脱にあつては、右事前の不正行為と虚偽過少申告との間に因果関係が認められる限り、両者は一体となつて一個の法人税のほ脱罪を構成するものというべきであるから、右役員間における不正工作の態様や金額についての認識の齟齬すなわちほ脱の認識の錯誤は、共犯者間における同一構成要件内の具体的事実の錯誤の問題として故意を阻却するものではなく、従つて、被告人両名及び利文らの責任になんら消長を来すものではない。
なお、被告人両名のなした右売上除外、架空外注費の計上については、前述のように被告人両名が事実上、四日市本社を退社した後に本社の事情とは関係なしになされたもので横領的な側面を有することは否定しがたいが、他面前記認定のように被告会社の法人税をほ脱する結果になることを認識しながら売上除外、架空外注費の計上という通常の脱税手段を講じて被告会社の所得をほ脱し取得したという事実も見逃せないところであつて、新会社の所得を領得した(新会社の営業開始は昭和五四年一〇月一日である)というわけでもないから、被告人両名のほ脱行為が直ちに被告会社の業務に関してなされたものではないと断ずることはできないのである。
以上のとおりであるから、弁護人の主張は採用しがたい。
(法令の適用)
一 判示各所為
昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一五九条一項(被告人両名については、さらに刑法六〇条、被告会社については、さらに法人税法一六四条一項)
一 刑種の選択(被告人両名)
所定刑中懲役刑を選択
一 併合罪の処理
1 被告会社
刑法四五条前段、四八条二項
2 被告人両名
刑法四五条前段、四七条、一〇条(犯情の重い判示第二の罪の刑に加重)
一 刑の執行猶予(被告人両名)
刑法二五条一項
一 訴訟費用
刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条
(裁判官 櫻林三郎)
別紙 増差犯則所得の内訳表
<省略>